H29ものつくり大学 市民特別公開講座が開催されました。

 平成29年10月29日(日)ものつくり大学のC1010大講義室において「世界遺産から日本遺産まで 文化と地域の関係について考える」をテーマに「ものつくり大学 市民特別公開講座」が開催されました。台風22号の影響で前日午後から雨模様となり、公開講座開催日当日朝から雨が降っていたため聴講者が少ないのではないかと思っておりましたが、多くの方が集まっておりました。行田市民大学同窓会広報として主催者に撮影許可をいただいて写真撮影もできました。

 公開講座では、主催者の ものつくり大学学長 赤松 明氏、行田市長 工藤正司氏のあいさつに続き、筑波大学大学院教授・日本遺産審査委員会委員長 稲葉信子氏が講演されました。

 世界遺産委員会の構成、世界遺産の価値、女人禁制の沖の島が世界遺産登録された経緯、イギリスの湖水地方が20年間世界遺産登録されなかった理由、アフリカから奴隷として連れてこられたブラジルの港町の世界遺産登録、危機にさらされている世界遺産について、日本遺産はストーリーが重要 など多くの具体事例を示しながらわかりや安く講演されました。

講師の稲葉信子氏のプロフィール  参考HP

 専門: 遺産論、建築史

 研究テーマ: 遺産の概念、保護の理念から政策に至るまで、文化、自然、有形、無形、動産、不動産を問わず、幅広く各国や国際機関の動向について比較研究を行っています。理論面では遺産の価値や真正性について、また実践面では文化遺産マネージメントについての議論を得意としています。

ものつくり大学学長 赤松明氏 挨拶  

行田市長 工藤正司氏 挨拶

講師 稲葉信子氏

 

講演内容の一部を下記します。

講演の光景

世界遺産

 世界遺産委員会は毎年1回どこかの国で開催されています。今年の世界遺産委員会の委員は、世界遺産条約を批准している約190ヶ国の中から選挙で選ばれた21ヶ国で構成され2年に1回、21ヶ国の1/3ヶ国が交代します。日本は一昨年まで委員でした。

(講演会のスライドより抜粋)

 

 沖の島の世界遺産登録に関しては、女人禁制あるいは人が入れないところを良しとするか悪いとするかが話題になりました。そうした伝統について自由に議論ができる状況が整っているか、要するに民主主義があれば良い。保存・保全の仕事に対して女性男性に関係なく解放されている、歴史的文化的価値に対して公開されている、沖の島の世界遺産推薦書作りは福岡県の担当者で女性、沖の島の宝物管理も女性です。こうした説明によって2017年7月に世界遺産に登録されることになりました。

 今年新たに認定された世界遺産は21。文化遺産18、自然遺産3、複合遺産0。世界遺産には複合遺産というものがありますが、自然遺産と文化遺産が一緒になったものです。世界遺産の良いところは、自然と文化が一緒になっていることです。どこの国でも文化省と環境省は分かれています。人間は自然に囲まれて生活しているにも関わらず、それぞれ別に考えられてますが、世界遺産はまさに文化省と環境省が一緒に仕事をする場所です。

 イギリスは全くの自然とは言えない湖水地方を20年来 2度にわたり世界遺産に推薦してきましたが、世界遺産委員会はNOだった。これまでは広大で純粋に厳正・厳密に見守られている自然、あるいはピラミッドのような人工物が世界遺産として認められてきました。全くの自然でなくても人間が育ててきて、人間にとって重要な文化的意味を持つ自然、世界遺産でこういうものが大事だと考えるようになったのは20年以上前のことです。しかし、まだ時期が早いという理由で世界遺産になりませんでした。イギリスの湖水地方の担当者は諦めず20年かけて準備を進めてようやく今年、世界遺産に登録されました。

*湖水地方;氷河時代の痕跡が色濃く残り、渓谷沿いに大小無数の湖が点在する風光明媚な地域

危機にさらされている世界遺産

 イスラエルとアメリカがユネスコを脱退すると宣言した原因となっている一つがイスラエルとパレスチナで紛争になっているヘブロンというところです。イスラエルが一時占領し、今はイスラエル20%、パレスチナ80%と領土を分けており国際監視団がおかれています。

 危機にさらされている世界遺産は2017年7月現在、54件あります。原因は高層ビルの建設、ショッピングセンターの建設などの開発、紛争で基本的に人に原因があります。シリア、リビア、イラクなど地域紛争が絶えない地域の文化遺産が危機になっていますが、ユネスコは軍隊を持っていないので自ら行って戦うわけではなく、情報収集して平和が戻った時にはすぐに現地調査に入る準備をしています。

 (講演会のスライドより抜粋)

   

世界遺産の価値

 顕著な普遍的価値、普遍的価値とはそのものが持っている絶対的価値ではなく、大多数がそこに価値があると認めるもの。

日本遺産

 日本には、下記のような文化財の種類がありますが、これに収まらなければ文化財でないのか?世界遺産ではこのような小さな分類ではありません。

有形文化財;建造物・美術工芸品・史跡・名称・天然記念物 、無形文化財、民族文化財、文化的景観、伝統的建造物群

 20年位前から文化庁が指針としてこれからしなければならないと考えてきたことは種別の統合です。地域にあるものをバラバラに指定される必要は無い。例えば個別にある建物や宝物をバラバラにすることは無い。神社と鎮守の森をまとめて鎮守の森の文化遺産で良い。こうした考え方をどうするかということがずっと文化庁の課題でした。

 日本の文化財保護法は種別です。取りあえず日本遺産は法律によるものではなくてプロジェクトです。その方が縛られなくて良いのです。 

(講演会のスライドより抜粋)

 

   

 

 

日本遺産はストーリーです。常に語り掛ける話力が必要です。どこにでもあることは、その建物の建設時期や歴史についての説明ですが、大事なことはストーリーです。重要なのは、点と点の間の空気を伝えることです。そこが難しいのです。

この後、質疑応答に入り約1時間半の市民特別公開講座は終了しました。

以上 広報交流委員 田村(記)